F4Cスケールモデル世界選手権参加記日本チーム チームマネージャー 清水 潔
第19回F4Cスケールモデル世界選手権大会はスエーデンのストックホルム南西160 Kmのところにあるノルショーピンにて、7月12日から22日までの11日間をかけて 行われました。 日本からは渡辺敏文氏と私、清水潔の2名の参加でした。2人とも世界選手権への参加は 初めてだったため、この大会でいろいろな経験をいたしました。 以下に順を追って大会参加記をお送りしましょう。 今後、こうした世界レベルの競技会への参加をめざす方々にいくらかでも参考になれば幸 いです。 <大会準備> 機体を運搬するための木箱を製作しました。 当初は機体を主翼を組み立てたまま、胴体 のみを2分割にして箱を作りましたが、デンマークで乗り換える時の航空機の荷物サイズ に合わず、サイズダウンして木箱を作り直しました。 複葉機ですので結局全部分解して ばらばらにしたあと、梱包をしました。 箱のサイズと重さは航空機の貨物室に入る大きさの制限はありますが、出来るだけ小さい 方がすべての点で有利ですので、機体を製作する時点でなるべく小さく分解できるように 計画し、かつ運搬用の箱のことを考えておくことが大切です。 出来れば普段国内で運搬したり練習したりする時の分解レベルと、海外への運搬をするレ ベルのそれとを2段構えで計画的に行っておくとよいと思いました。 今回は荷物を通関する際にATA―カルネを利用しました。少々費用は掛かりますが各国 の通関の際、手続きの簡素化には役に立つようです。今回は一度も箱の中を見られません でした、書類の威力かと思います。 <大会参加状況> F4C、ラジオコントロールスケール部門へは22カ国、52機のエントリーがありまし た。車で2000kmを走ってきたチームや、犬まで連れて家族で参加した選手など夏の バカンスの風情と生活観から来る余裕の一端を垣間見たようです。 この約半月間の休みを取るのに工夫と努力を重ねた日本チームからは家族連れが普通に見 えるヨーロッパチームはうらやましくも見えました。 オーストラリアチームがいずれ大会を誘致したいが、日本はきてくれるかい? と聞いて きました。 ヨーロッパ各国の反応は今ひとつ、ぱっとしなかったようです。 やはり地続きで来れる場所での開催というのは魅力なのでしょう。 <機体静止審査> 審査団は2チームありまして、1機の機体をそれぞれのチームが静止審査をしました。 この2チーム方式は公平さを高めるために採用されたのですが、1機の審査に2時間くら い掛かり、グループ間の待ち時間を含めると都合大よそ3時間くらい掛かっています。 気温が20度C程度でからっとしていますので、木陰で休んでいると快適です。 久々にゆったりと待つ時間を楽しみました。 審査の方は大変に厳正で中立公正なものだったと思います。 なんといっても世界のレベ ルは想像を超えて高いと感じました。 用意したドキュメンテーションに基づいてモデルが主題実機に如何に忠実に作られている かを審査しているのですが、そこに許される許容誤差の範囲がとてつもなく狭いというこ とでしょう。ちょっと極端な説明ですが、主題実機そのものを1/1スケールです、と言 って持ち込んでやっと満点かなということです。それでも規定書に記載されたドキュメン トが不揃いだったり、工作精度が他機と較べて劣れば減点ということもあり得ます。 上位選手の機体の静止審査点が2600点以上というのは、如何にモデルが主題実機に忠 実に作られているかを表していると思います。満点は3000点ですから。 今回とくに感じたのは、得点係数の高い3面形の審査で如何に図面が主題実機(つまり提 出した写真)に忠実であることの意味です。 ほとんど問題にしていなかった機体の3面 形のわずかな違いが大きく採点に効いています。 カウルの大きさがやや広いとか、胴体の後部の絞り方はきつ過ぎるとか、主題実機にある ものが着いていない、などなどマア似ているといった出来では減点は避けられません。 規定書には図面に疑義がある場合には写真を優先する、と書かれていますが、機体を製作 するには、図面がまず写真と比較して正確であることを確認しなくてはなりません。 キットから機体を作って、その後でドキュメンテーションをそろえてという順番で準備を したのでは、主題実機との違う点が山のように出てきてしまいます。 今回の大きな収穫の一つが出場機準備の仕方だと思いました。 今後スケールの国際大会を目指すモデラーの方には今回の結果から、次の点を申し添えた いと思います。 まず実機写真を参照して信頼できる図面を用意して、次に主題実機の資料、細部写真を用 意して、それから機体を製作する。 という順番でなければいけませんでした。 機体の 大元がキットであっても一向に構いませんが、完成したモデルの3面形は用意したドキュ メンテーションに出来る限り忠実になるように製作時点で写真を見ながら手を加える必要 があります。 仕上げは主題実機がピカピカの新造機であればそれを忠実に、あるいは実戦で傷や汚れが ついていればそれを忠実に写真を見ながらスケール縮尺どおりに忠実に再現する、という ことが大事です。 見た目にすごいスケール機、でも実機とはちょっと違うという機体よりは、実機に忠実な、 実機通りにぱっとしない機体、の方が上位に採点されます。 紙面の都合で参加機のすべてはご紹介ができませんが、今回上位になった機体の報道をこ うした意味でご覧いただけると良いと思います。 <飛行審査> 飛行審査も採点の基準の根底にあるものは、実機らしさの再現にあります。こちらも満点 は3000点ですが優勝したスイスのルチー選手の飛行点は2472点ですから如何にす ばらしい飛行だったかがお判りいただけるとおもいます。 飛行審査は決められた規定演技といくつかの選択演技で行われますが飛行全体を通して、 その主題実機の飛行と比較して実機感があったかどうかも問題になります。 ですから一つの演技が終わって次の演技に入るまでの繋ぎの飛行でもこのことは大切です。 エンジンパワー全開でエルロンをシャープに利かせた、ビュンビュンと飛ぶ飛行はスケー ル機の飛行としては好ましくありませんので、この点には注意が必要です。 もう一つ大事な点ですが、主題実機にはパイロットが乗っています。 モデルにもパイロットを載せることが義務付けられています。 多くの実機の場合パイロットにマイナスGを感じさせることを出来るだけ避ける飛行をし ていると聞いています。 たとえば古典機でスプリットSのハーフロールから下降のハー フループに入るところを考えて見ましょう。スケール機の飛行の場合、スタント機のよう な正確な図形を描くというよりは、マイナスGをパイロットに感じさせない飛行を心がけ ますので、ハーフロールに先立ちやや機首を上げてからロールに入れ、Gをシートに残し ながらハーフロールに入れるようにします。 ここの時点でダウンを目に見えるほど打つ ことはスケールらしい飛行の観点からは大きく減点されます。 こうした観点からは、よく見かける背面飛行、リバースキューバンエイト等のマイナスG のかかる演技を、主題実機のキャブレターの構造を考えずに安易に行うなどは論外である と聞きました。 離陸時のパワーコントロールや旋回飛行でもスケールらしさが求められます。たとえば離 陸を例にしてみたいと思いますが、実機では当然最大出力で離陸しますが、モデルの離陸 では必要最小限のパワーで実機が必要とする滑走距離をじっと我慢して保つことが大事で す。 離陸後もパワーにまかせて急な角度でぐんぐん高度を取るといった離陸も良くあり ません。 離陸をようやく行った実機は、高度と機速を得るまでは緩やかな実機らしい上昇をじっと 我慢して続けます。 一定の高度に達したなら90度旋回をしますが、このときのバンク の角度が問題です。パワーの少ない主題実機の場合離陸後の高度獲得で機速はまったく不 十分ですから、この90度旋回で強いバンクをかけて旋回に入れようものならばたやすく 失速を起こすことになります。 事実、今回の大会期間中にも離陸後の旋回中に失速をした機体もありました。 このときのバンク角は気持ちとしては10度以下とも言われていますが、とにかく浅い角 度に保って旋回にはラダーを多用します。主翼を水平に保ちつつ離陸を一直線上にするた めにはラダーを使っているわけですから、この旋回にも存分に使っていく必要があります。 エルロンで傾けて、エレベーターで旋回という飛行の仕方はスケール機では感心しません。 私の場合ラダーからエルロンとエレベータにミキシングを入れています。 スタント機のときのナイフエッジミキシングと同様ですが、これは水平直線飛行時にも大 いに役に立ちます。 横風時のこの演技は飛行方向を保ちつつ翼を水平に保ちますので 大変有用です。 もう一つの工夫はコンデイションメニューの設定です。 演技方向、ジャッジズラインに右から飛行させたときと、左から飛行させたときとで別々 のコンデイションを割り付けておき離陸後のデッドパスの一往復を利用して、左右からの 風の違いに対してそれぞれの飛行方向に合わせたトリムを取ってしまうのです。 風が弱ければメインのコンデイション一本でよいのですが、今回のように12mを越える 横の風となりますと最低パワーで飛ぶ複葉機の飛行には風対策が必要です。 今回の3回の飛行ではとくにあがることも無く演技が出来たと思うのですが、やはりいろ いろな局面で上手な飛行をすることはなかなか難しいと思いました。 又、常々云われていることですがコーラーとの関係も非常に大切で、ライン取り、演技開 始のタイミング等でピッタリと息の合ったコーラーとの関係を築くにはかなりな練習時間 が必要だなと痛感しました。 今回は3ラウンドの内2ラウンドは横風の中での飛行となりましたが、これを不運の故に せず、風の強い日には風の対策のための練習を進んでするようにしなければいけないと実 感をしました。 飛行審査では5人の国際ジャッジが審査にあたられましたが、その中に日本からは初めて 鈴木 嵩氏がFAI国際ジャッジとして招聘されました。 いづれ、ジャッジからみたF4Cという観点からのご指摘をいただきたいとおもいます。 <大会運営> スエーデンの皆さんの大会運営はすばらしかったと思います。 大会に先立ってホームページが整備され、このHPを見ることで大多数の情報が得られる ような仕組みが出来ていました。 大会役員の方々はそれぞれの役割をよく果たしていたと思います。 バルト海沿岸に近い会場ということもあり、航行中の船からの違法電波による妨害電波の 発生で競技が中断した時とか、雷雲降雨時の対応など決断と対応が早くて見事でしたし、 その他通常の運営も限られたスタッフがよく働いていました。 日本でも見習うところが多くありそうです。 大会後半に開かれた表彰式とバンケットでは正装した紳士、淑女の皆さんがゆったりとし た時間を楽しんでいました。 我々日本チームもバンケットでは大いに楽しみました。 こうしたゆったりとした時間が楽しめるのも、本大会関係者の方々のご努力の賜物とおも います、私が知る範囲では、大会運営に関する苦情とか不満とかを耳にしたことはありま せんでした。 <日本チームのこと> 日本チームとしては団結してよくやった、とおもいます。 チームマネージャーは私が勤めさせていただきましたが、正式ではありませんが、サブマ ネージャー格として経験豊かな安藤由隆さんがその任に就かれて縦横の活躍をされました。 またドイツから駆けつけてくださった大本さん、カメラを片手に活躍された猿渡隆二さん、 機体の整備にご尽力をいただきました今村さん、渡辺英明さん、渡辺敏文さんのご家族の 方々も皆さん役割をよく果たされて、大会を楽しまれたことと思います。 日々の出来事やトラブル対応などは安藤氏、猿渡氏のHPにそれぞれ報告がされています ので、興味がおありの方はそちらもご覧いただきたいと思います。 <最後に> 日本チームの成績が中位に甘んじてしまいましたので、応援をいただいた皆さんやご期待 をいただいた方々に対して申し訳なく思っております。 スエーデンでは世界のスケールF4Cのレベルを目の当たりに見てきました。 静止審査と3回の飛行審査をそれぞれ経験させていただきまして、世界の上位のレベルを 実感してくることも出来ました。 これらの貴重な経験を生かして今後、一歩の前進を目指したいと思っています。 お世話になりました多くの方々にお礼を申し上げます。 |